アテレコは「ジェミー」が初めてなんです 人気声優インタビュー44
『「バイオニック・ジェミー」のリンジー・ワグナーの声の吹き替えでおなじみの田島令子さん』
「私、アテレコはこの『バイオニック・ジェミー』が初めてなんです」
開口一番、この言葉にいきなり驚かされてしまった。
そういえば田島さんの名前を失礼な話だが洋画劇場の最後のクレジット・タイトルで見かけたことがない。そこで「バイオニック・ジェミー」の最初のアテレコの模様を聞いてみた。
「最初ね、レシーバーをつけて、耳から英語が聞こえてきて、台本を見て、画面を見て、
台詞をしゃべるでしょ。これは、とってもできないと思った。するとね、演出家とプロデューサーの方から
「画面に合わせることはしないでくれ、あなたのキャラクターで画面を自分の方に引っ張るようにして、多少台詞が余ろうが短くなろうが、そんなことは気にしないであなたの芝居でやってくれ」
と言われたんです。そういうところから出発したので、まだ未熟なんですがわりといろんな工夫もできるし・・・そういう意味で初めてのアテレコ作品にしてはいい作品にめぐり逢えたと思っています」
全部で36本分ある(第1~2シーズンまで)「バイオニック・ジェミー」
週1本ずつ日本語版を完成させて、現在まで23本を終えた。
いくら自由にやっていいと言われても初のアテレコのこと、台詞をしゃべるのに精一杯だったとか。
しかし、近頃はようやく余裕が。
「でも、アテレコというものに慣れたくありません。器用に何でもアテられるようになりたくないんです。器用すぎないように、慣れきらないように、いつも一からのつもりでアテていくつもりです」
きっぱりと言い切る田島さんの表情に、仕事への情熱がうかがえた。
そして一番勉強になるのはTVのオンエアを見ることだそうで、試写室などで見るのと違ってアラがよく見えるので、田島さんは必ず見て反省する。
さらにアテレコは、俳優にとって台詞の勉強になると同時に演技の勉強になる。ただ単にアテておらず、どこか演技を盗んでやろうという気構えも持っている。
ところで、なぜアテレコ未経験の田島さんがシリーズもののしかも主役に抜擢されたのだろうか?
「番組担当プロデューサーの推薦なんです。旅行番組『遠くへ行きたい』に出演していた私に目がとまり、ぜひあのムードでやってくれ、と言われたんです」
田島さんにとって大変ラッキーなアテレコ界へのデビューである。
この「バイオニック・ジェミー」のおかげで他からアテレコの仕事が次々と来ている。
(略)
さて、話を「バイオニック・ジェミー」に戻して、ジェミーを演じているリンジー・ワグナーについて聞いてみた。
「ものすごく素人っぽい人。わりとなりふり構わず演じているし、きれいきれいでやっていない点が好感が持てます。
深層心理演技を要求される番組でないから、彼女のようなさっぱりとしたキャラクターがいいのじゃないかしら。
とても透明な感じで合っていますね。ちっとも嫌味を感じたことがありません。だからアテていて抵抗感がなく、彼女にとけこんでいけてとても楽しいです」
田島さんはこの種の作品はやっていて楽しいから好きだと言うが、一作ごとに出来具合が異なり、アメリカでは子供向けに出来ているせいか、少々お話がちゃちで、大人がじっくり見られるような綿密なトリックがほしいとか。
それにしても日本語製作版に様々な工夫がなされている。日本人の感覚に合うように作られているのは当然だか、「ジェミー」の場合、スーパーウーマンものなのでテキパキとしゃべると抵抗感があると思い、最初は甘さを加えて語尾をやわらかくした。すると、意識しすぎか、少々いやらしくなったので、もっと自然な感じでしゃべることにした。とにかくその都度話合いがなされているのだ。
また最近になってアテレコの傾向が変わってきていることも田島さんから聞いた。
「プロデューサーから聞いたんですが、軸になるひとたちは役者で固める方向になってきているんですって。
つまり、きちんとアテるのではなく、はみ出す部分がほしくなってきている。しゃべりがはみ出すのではなく、違う面でのはみ出しがね。日本語版に何か今までとは違った味を求めているようです」
(略)
一方、田島さんがアテレコを始めて切に思うことは、横のコミニュケーションが必要だということ。
つまり、画面と声優との縦のつながりではなくて、声優同士のつながりがもっと大切だということなのである。そうすれば、アテレコの仕事がもっと楽しくなると田島さんは思う。
最後に「バイオニック・ジェミー」のセールスとファンへのメッセージを言ってもらった。
「きゃしゃで弱そうにみえる女性が心優しくて力持ちという、意外性が魅力で老若男女問わず、どなたが見ても抵抗なく楽しめます。ぜひ見ていただきたいわ。そしていつも新鮮な声でジェミーをやっていくことを心がけています」
田島令子 昭和24年2月17日生まれ。(リンジー・ワグナーと同年)
(略)(今現在の略歴は変わっていると思われるため)
☆☆☆ Memo ☆☆☆
田島さんはジェミーの声だけでなくその主題歌レコードも吹き込んだ。
歌はドラマのエンディングで使用された。(第3シーズンより)
「ジェミーの愛」(B面・「やさしさのとき」)
「ジェミーの愛」 作詞・木原たけし 作曲・渡辺岳夫 編曲・小六禮次郎
「やさしさのとき」 作詞・田島令子 作曲・渡辺岳夫 編曲・小六禮次郎
歌・田島令子 コーラス・フィーリング・フリー